花に嵐の…
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 
 


桜に無情の風や雨は、残念ながら付き物なれど、
この春の場合、都心に限ってを言うならば、
急に上がった気温が原因で、
途轍もなく駆け足な桜だったような気が。

 「そりゃあ早く暖かくなってほしいとは思ってましたが。」

お彼岸にはアイスがバカ売れしたそうですしねと。
異様なほどの暖かさだった三月を思い起こしたか、
それを憂うような口調のまんま、
長机の前へ陣取っていた少女が頬杖をついて見上げた先には、
小筆の先でちょんちょんと加減しつつ色を入れたような、
小さくて若々しい緑がお目見えしつつある梢。

 それは見事な桜でも有名な女学園。
 だのに この春は、
 その桜がとうに盛りを過ぎ、葉桜になり始めていて。

仄かな緋が差す白い小花の輪郭をぼんやりと曖昧にするような、
明るくはあるが薄曇りとなった曇天を“花曇り”と呼ぶのだって。
そういうお日和になることが少なくはない時期だからこそ。
常套句にある“女心と秋の空”というのは、
実は“春の空”でも構わないのだとするくらい、
お天気が目まぐるしいことでも知られており。
無情な雨風にいじめられ、
せっかくの桜が散らされるのを残念に思うことはままあれど、

 「順当に咲いた結果として、
  もう散りどきを迎えてしまったというのも、
  何と言いますか…こう。」

咲いて日も浅いうち、
強引な風に無残に散らかされるよりは、
ずっと良いには良いのだけれど。
でもねぇ…と、言葉にならぬ何かを言いたげなお友達なのへ、

 「そうですよねぇ。
  晴れやかな演出に、これ以上はないお花ですし。」

細い眉を甘く下げての、あくまでも彼女の心情へ同調するように、
お隣のパイプ椅子に座していた少女がやはり残念そうなお声で続ける。
今日も結構な暖かさで、
濃色のセーラー服の細い肩が、降りそそぐ柔らかな陽に暖められており。
丁寧に品よく整えた金絲が縁取る白いお顔へ、はんなり浮かんだ微笑みもまた、
ずんとやわらかな色合いを増しているような。
とはいえ、

 「…おとと。」

ひゅうんという微かな風鳴りが聞こえて、
それへやや遅れてのこと、
テーブルに置かれた受付票だのしおりだのが
端から順に舞い飛びそうになってしまうのを。
ばばばっとポーチだ何だを置いての押さえる手際の素早さは、
さすがお若いだけあって、舞いのように鮮やかなものであり。

 「もうちょっと早く
  気づいて差し上げられたら良かったのですが。」

ちょいとお転婆な自分には造作もないこと。
でもでも、慣れのない身では
ただただ焦るばかりで大変だったでしょうにと。
もう3つほどしか入ってはいない、造花のついたリボンの箱を蓋しつつ、
白百合さんが感慨深いお声で呟けば、

 「まぁまぁ。大泣きに至ってまではいなかったのだし。」

桜がほろほろ散る程度の風ならともかく、
こうまでの風が吹いた入学式というのも前例がないそうですしと。
ひなげしさんの方は、もはや余裕のお顔でおいでであって。

  というのが

午前中の本番も本番、
初々しくも緊張しつつ、ご家族とともに初登校して来られた新入生たちを、
ようこそと迎える大事なお仕事をなさっていた担当のお嬢さんたちが、
だがだが、思わぬ突風という悪戯ものに襲われ続けもしたそうで。
お渡しする書類やしおりが飛び回るわ、
お胸へ留めねばならぬおリボンつきの造花が吹っ飛ぶわ。
重しをと思わなかった訳ではないが、
相手が次々にお越しになられるので、こうやっていちいち押さえ放しにも出来ず。
5人ほどで詰めていた5人共、
泣きそうになっての混乱しかかっていたのを、
通りすがったひなげしさんがフォローに回ったそのまんま、
式も終わったよんとメールして来た、
白百合さんも引きずり込んでの、今に至っており。
そんな二人が所在無げにいたテーブルへ、

 「桜の代わりに、モクレンとか…。」

校庭側からやって来たのだろう、気配のないまま現れたお友達が、
唐突に ぼそりとお声を掛けて来たものだから。
片やの少女、林田さんチのひなげしさんが、
不意を突かれたことへ驚きつつ、
少々お行儀が悪かったのを おおおと慌てて正しており。
そこまで慌てずともという苦笑を見せながら、

 「そうそう。
  ユキヤナギとかモクレンとか
  ピンクも色濃い 桃の花とか。
  次のお花が その代わりを頑張りたいか、
  やはりはやばやと咲いておりますよね。」

三木さんチの紅ばらさんの告げた
たいそう短かった一言に含まれていた色々、
きっちりと掬い上げて差し上げたのが、草野さんチの白百合さん。
殊更におっとりとした話し口調だったのへ、
どうどうどうと宥められた格好となり、

 「ああ驚いた。」
 「???」

胸元へ手をあて、ほおと息をついた平八だったのだけれど。
そんなこちらの展開が見えないか、
ひょこりと小首を傾げてしまわれた張本人様なのがまた、
何とも久蔵らしいなぁとの笑みを濃くしつつ、

 「ヘイさんたら、
  交替の方々がシスターと一緒においでかと思ったのですよ。」

 なのに、暇だぁと頬杖ついてたものだから。
 姿勢とお行儀が悪いと注意されるんじゃないかって、
 飛び上がってしまったの。

微笑みながら そうと七郎次がすっぱ抜いてのやっと、

 「……。(おお、頷、頷)」

紅ばらさんへも納得がいったらしい手間暇の要りようも、
彼女らには もはや微笑ましい種のお約束。
勿論のこと、
驚かすつもりというよな悪戯心があった久蔵さんではなく。
なのに、殊更に そおと現れた彼女だったのは、
別口でそれなりの理由があったから。
それは明るい正門前という受付の左右を見回し、
今はお昼下がりとあって、他には誰の姿もないのを確かめると。
スカートの後ろになるよう、
両手を腰へ回しの、向背へと隠して提げていた紙袋を
そそと手前へ持ち直せば、

 「あ、それって。」

ひなげしさんの下宿先にして、彼女らにとっても 行きつけの甘味処、
『八百萬屋』というお店の、
お持ち帰り用の紙袋を、こそりと提げて来た紅ばらさんだったらしく。
無論、袋だけならこうまで構えたりはしない。
時間帯から言って、お昼ご飯のお弁当…ということならば、
誰に見られようと咎められはしないから、警戒なんて要らぬのだが、

 「ポーチを歩いていたら。」

言いながらその細おもてをひょいと向けたのは、体育館の方向だったので、
その周縁を平らに縁取る、
セメントを打ちっ放しにしたところにいたと言いたいのだろう。

 「あらまあ、ゴロさんたら大胆な。」

体育館の回りと言っても、
そちらには扉もなくての人通りはほとんど無い側。
学園をぐるりと巡る鉄柵に近いといや近く、
そんな位置だからか、人目もないとはいえ、
妙齢の無垢なお嬢様ばかりを預かっておいでの場所柄だのに、
そうそう近寄っては痛くもない腹を探られかねぬ…と思ってしまった辺り、

 “さすがは、こっそりながら
  防犯カメラを設置して回ったお人だけのことはありますね。”

犯罪行為へ神経質なワケじゃあなく、
どちらかといや、むしろ…
面白いネタは引っ掛からぬかと仕掛けたとしか思えない、
今のところはそんな活用しかしちゃあいないのではあるけれど。
それでも、だからこそ“徒に映り込んでどうしましますか”と
案じたらしいひなげしさんだったのだろう。
まま、怪しい人じゃないのは明白なのだから、
大目に見てお上げなさいなと、私設 防犯委員長(仮)をいなした白百合さん、

 「柵越しに渡されたということですか?」
 「……。(頷、頷)」

慣れのない人には少々取っつきにくかろう、
切れ長気味の双眸や、きりりと引き締まった口許が相俟って、
ツンとお澄ましして見える、それは端正なお顔のお嬢さんだというに。
うんと幼子のような無造作な仕草で頷いた紅ばらさんが、
ほれとテーブルへ紙袋を置く。
提げて来た久蔵は重みでそれと察していたようだったし、

 「配達の途中になろうから、
  何なら此処へ乗り付けようかなんて言ってたんですよね。」

怪しまれるよな真似をしてと、非難したのはどこのどなただったやら。
椅子から立ち上がっての身を乗り出して、
ワクワクと覗き込んでくる平八にも、袋の中身は知れている模様。
真ん中を一か所だけテープで止めてあるのを手際よく剥がすと、
がさりと開いての用心深く取り出したのが、つやのある真っ白な化粧箱で。

 「通用口へお祝いのおまんじゅうを納品した
  その帰りだったんでしょね。」
 「あ…vv」
 「わ、かわいいvv」

天位置の蓋の部分をそおと開ければ、
中には 淡桃色の練りきりと真っ白いじょうよ饅頭、
玉子色の餡を仄かに透かす 羽二重もちとが、3つずつ収まっている。
女学園の引き出物だからか、やや小ぶりなサイズだし、
練りきりには小さな花びらに型抜きした
羊羹細工がくっついているのがまた可憐で。
趣向も春らしく凝っているその上、
結構な数を作らにゃならなんだはずなのに、

 「ゴロさんたら、見せてくれなかったんですよね。」

さっそく食べましょと、
箱の中に同封されてあった、
使い捨てとは思えぬ小じゃれた小皿を取り出しつつ。
だがだが、平八がこぼしたのは意外なお言いようだったので。

 「え? だって…。」

くどいようだが、八百萬屋は平八の下宿先。
お店のお運びのお手伝いもしないじゃない彼女だし、

 「だって、さっき…。」

この、祝い菓子の発注があったことは
ちゃんと知っていた様子だった口ぶりだったのに?と。
青玻璃のお眸々をきょとりと見張った七郎次だったのへ、

 「こういった生菓子は、
  作りおき出来ぬものですからね。」

さすがに量が量だったので、
懇意にしている職人さんも助っ人に呼んでではありましたが。

 「今朝方、そりゃあ早起きして、
  黙々と作ってらしたようですよ。」

それぞれのお皿へまずはの一つずつを取り分けた、
ちょみっと伏し目がちなひなげしさん。
もしかして、内緒にされてたことへ遺恨とかあるのかなぁと。
急にしおらしいトーンとなったの感じ取り、
お菓子への関心よりも、お友達の心持ちのほうへと注目しちゃった、
これで結構 気も遣う(失敬な)金髪娘二人だったが、

 「やだなぁ。何に気を遣ってますか。」

視線に気づいた平八、
あっと言う間に、こらこらという苦笑で口許をほころばす。

 「教わってなかったって言うのはね、
  どんな意匠のにしたかは、
  見たときのお楽しみにしたかったからって、
  それでの内緒を通されたって意味ですよ?」

あとね?と、
まだ何かあるものか、
まずはご本人がうふふと やわらかくもあどけなく笑ってから、

 「シチさんがじょうよ饅頭で、
  久蔵殿は練りきり、わたしは羽二重もちが大好きっての、
  さりげなくリサーチしてもいたみたいで。」

そんな秘密を付け足したものだから。

 「…あvv」
 「……。/////」

  ありゃまあ。でも、主役は入学生の皆様ですのにねvv
  そうと言いつつ、シチさんたら満面の笑みですよ?
  ………vv(頷、頷)

見栄えの愛らしさとそれから、
お味も絶品の和菓子を摘まみつつ。
桜と共にというお祝いは出来なんだけれど、
美味しいお菓子とそれから、
お帰りを学園名物の三華がお見送りする所存ですので、と。
新しいお仲間となる新入生のハレの日に相応しい、
極上の微笑みを用意するべく、甘味補給中のお姉様がただったそうで。

 そういや、久蔵殿には
 顔見知りの下級生の方々も一杯上がって来られたことになるんですよね?

 ……。(頷)

 それって、
 しばらくほどは久蔵殿が注目されまくりってことかしら?

 〜〜〜??(???)

少なくとも、
一子様とか もう一度新入生なのねとかいう話題は、
出来れば避けて下さいませと。(苦笑)
もーりんまで話の輪へ入りかかったところへと、

 「…あら、あなたがた。」

 「あややっ。」
 「シ、シスター・ベロニカ?」
 「〜〜〜っっ。」

いや別に、つまみ食いじゃあなかったんですけどもね。
桜が思わずフライングしたほどの、
新鮮でわっくわくの新学期がいよいよ始まります。
今年こそは、
出来れば穏便な学生生活を……って、
いやその、あのあの、こちらさんでは無理かなぁあ?(おいおい)





     〜Fine〜 13.04.06.


  *入学の式典も終わっての、
   今は新入生やご家族と、教員職員の皆様とで、
   お菓子をいただきつつのお茶会風説明会に入っておいでとあって。
   もう通るお人もいなかろう受付のお当番を、
   式進行のアナウンスを担当した白百合さんと、
   会場内装飾の責任者だったひなげしさんが担当していたところへ、
   歓迎の斉唱の伴奏を担当した久蔵殿がやって来た…ということで。
   何が大変だったかって、
   書いてる最中の近畿地方は、
   台風並みの爆弾低気圧が徐々に徐々に近づきつつあることでして。
   メモを取ってた頃合いは、五月並みという気温と好天で、
   ニュースもワイドショーも花見の話題も盛りだくさんだったのにねぇ。

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